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スポーツと武道 

武道とは何かという認識に対する輪郭は未だ霞んでいるように私には見える。その理由は武道という言葉が統一された概念によって共有されていない印象があるからだ。実際に武道という言葉を介したコミュニケーションの現場を注意深く観察してみると実は完全に通じ合っていないことが多い。ほとんどの場合、それぞれの経験から独自に描いてきた抽象的な武道像を元にしていたり、何をもって武道といっているかのフォーカスポイントが若干ずれていたりする。それは日本人同士であっても同じであり、もちろん私もその一人だ。


このような状況に至った理由には主に2つ考えられる。まず一つは、武道という概念が長い歴史を通して醸造されてきたものであって、ある時点でなんらかのきっかけではっきりとした形で生まれたのではないということだ。それでも武道が日本国内に留まっている時代まで、または身体活動に対する異なる概念が国内に入ってくるまでは、武道の概念に対する明確化など問題にもならなかったしその必要もなかった。どの国でも自分の身の回りに常に当たり前のように存在しているものに対する特性や文化性というものはその国に留まっているうちは取り立てて客観的に捉える必要はない。武道においても日本国内においてそれが唯一の身体活動の概念によるものであり得たうちは概念化や言語化しようとする発想は持ちようがなかったのだ。二つ目は言語への依存率が比較的低いと言われる日本人にとって、身体文化を伝え享受するという過程に言語化しようという意識は高くなかったと想像できる。このことについては武道を理解する上でも、また未来の武道の理想像を描くうえでの問題点として理解する上でも大切だと思うので別の機会に述べてみたい。


さて、私達の生きる今の時代は、武道は既に遠い昔に海を渡り世界中に広まり、様々な文化土壌に根付いている。そして、先述した国内に留まっている間は問題にならなかった武道に対する言語化や概念化といった客観的視点を持つことは、異なる文化の地に降り立つことによって今度は必須となった。そして武道が降り立った地で遭遇したものがスポーツだった。つまりスポーツは武道に対する客観的視点を生むための比較対象となるもう一つの概念としての代表的なものだ。世界最大のスポーツイベントであるオリンピックの規模をみれば分かるように、スポーツは今では世界中において身体活動の代名詞かのようでもある。それは日本も例外ではない。スポーツが日本に入ってきたのは明治時代(1800年代後半)だと言われている。それから200年近く経った今を生きる私のこれまでの人生を振り返ってみても身体活動とはあたかもスポーツをすることだと認識していたと思い返すことができる。このように、生まれた時から既に身体活動の価値基準がスポーツ的な概念とほぼ一体となった現代を生きる私達は、武道を磨いているつもりでいてもいつの間にかスポーツ的な姿勢で取り組んでしまっている可能性がある。


こういったことから今を生きる私達が武道を実践する上でスポーツとの違いを明確に理解することはとても重要である。

 

 
 

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